奈緒子ちゃんの拘監日記7

 ♀♀月♂♀♂日 ヴァキナの日
 私の拘束監禁性活も100日を迎えました。
 ここの外の世界では、私の失踪のニュースは殆ど見られなくなったそうです。
 やはり、警察はここまで辿り着けなかったのでした。御主人様の巧みな証拠隠滅によって、私の捜索は完全に行き詰まってしまっていたのです。
 もう、誰も助けにこない。外では私の事件は迷宮入りするのを待つばかりでした。
 僅かな望みも絶たれ、後は御主人様の護謨性奴にされる運命を受け入れるだけでした。

 朝のバイヴ責めの最中、御主人様はテレビとビデオの用意をし、私に見せるように設置しました。
 いつものAVかと思いました。
 しかし、何か様子が違っていました。
 〈これから艶堕子(なおこ)にいいものを見せてやる〉
 画像が映し出されました。
 そこに映っていたのは、私が知ってる、一人の女の子でした。
 その子の名前は橘(たちばな)恵美(めぐみ)ちゃんといって、学校は違うけど、同じピアノ教室で一番仲良しの女の子でした。
 この子もこわい話や不思議な話が好きな子で、よく、お家に遊びに来てくれた子でした。学校の友達の中に、そういう話が苦手な子がいたので、学校の友達同士の間では少し控えていました。その点、恵美ちゃんはそういう気兼ねなく、そういう話が出来たのでした。
 そして、私は恵美ちゃんに御主人様の話をしていた事を思い出しました。
 (でも、恵美ちゃんにすら、私がここに来る事、話してなかったのに、何でここに…!?)
 疑問と同時に、恵美ちゃんに逃げてと心の中で叫びました。
 《えーっと、先日頂いたメールとお電話だけど、まだ詳しく聞かされてないんだが、一体、どういうご用件かね。ただのファンにしては、随分直に会いたがっていた様だけど》
 《丸木戸先生も御存知ですよね。柳沢奈緒子ちゃんの事件です》
 《ああ、三ヶ月ほど前にここ、八皇子で行方不明になった女の子だね。それが何で私と…》
 《奈緒子ちやん、ここに来たんじやありませんか?》
 《いや、来てないよ。どうしてかね?》
 《私、奈緒子ちゃんがいなくなった後、奈緒子ちゃんのお家に行ったんです。無くなってた本の事が気になって》
 《無くなってた本?》
 《奈緒子ちゃん、貴方のファンで、貴方が書いた本が好きで大事にしてたんです。無くなっていた本が貴方のばかりなのがおかしいと思いました。で、奈緒子ちゃんのママに内緒で机も調べさせて貰ったら、貴方に出したファンレターの返事も無くなってました》
 《ほほう、つまり、奈緒子ちゃんの失踪に私が関与してると言いたいのかね…》
 《そこまでは申しません。ただ、奈緒子ちゃん、貴方が住む町でいなくなってるんですよ。貴方の本や手紙と一緒に。これって、偶然でしょうか》
 恵美ちゃんはこれまでずっと私を捜してくれていたのでした。その事を知ると、とても嬉しく思いましたが、巻き込まれる危険を考えると、とても不安でした。
 《フフフ…、まるでジュニア小説の推理モノみたいな話しだ。確かに、奈緒子ちゃんにはファンレターの返事を書いた。しかし、それだけの事だ》
 《そうですか。奈緒子ちゃん、私にもよく手紙見せてくれましたよ。それに、いずれ直に会いたいみたいな事も書いてましたし》
 《読み間違いじゃないのかね。そんな事書いた記憶が無い。そもそも、手紙自体ないんだろ。奈緒子ちゃんが持って、失踪してしまったんだろう》
 《あくまで、しらばっくれるんですね》
 《大人に失礼な言い方だね。何と言われようとも、奈緒子ちゃんという子とは手紙のやりとりだけで会った事もないし、ここに訪ねてきた事も無い》
 《確かに奈緒子ちゃんがここに来た証拠はありません。しかし、奈緒子ちゃんちから貴方の本と手紙が無くなり、貴方の住む町で行方不明になってる。》

 恵美ちゃんがこの人を疑っているのが明らかでした。
 (お願い、恵美ちゃん! これ以上ここにいては危険よ! 早く警察に行って、その事を話して!)
 私は心の中で強く願いました。
 《この事を警察に話しても、証拠がないのですぐに警察は動かないでしょうけど、疑惑の目が向くのは明らかでしょうね》
 《警察に行くのかね…》
 《いえ、もう少し奈緒子ちゃんの周りを調べてみます。まだ確証がないので》
 恵美ちゃんは出されたお茶やお菓子に、一切口をつけませんでした。
 《探偵ごっこは程々にしておいた方がいいよ。もし、奈緒子ちゃんの失踪が犯罪性のあるものだったら、君も危険だって事だよ》
 《ご心配、ありがとうございます。でも、私も危ない事する気はありませんから。それじや、今日はここで失礼します》
 《送ってあげようかね?》
 《いや、いいです。行きと同じ、タクシーで駅まで帰ります。後は電車とバスで帰れ ますから、これで失礼します》
 《ところで、ご両親はここに来る事を知ってるのかい?》
 《直接は言ってませんが、一応ここの住所と電話番号を残して来ました》
 そう言い残して立ち去った所でビデオの画像が消えました。
 〈どうやら、艶(な)堕(お)子(こ)の事を薄々感づいた様だな。しかも、中々用心深い。出したお茶やお菓子に睡眠薬を入れておいたんだが、手を付けなかった。さらに、ここの電話番号と住所をメモで残して来たという抜け目なさ。もし、あの場であの子を帰さなかったら、却ってアシがついてたところだった〉
 私は恵美ちゃんが無事だった事にほっとしました。
 しかし…。
 〈しかし、あの子は致命的なミスを犯した。それは私にあの子の携帯の電話番号を知らせてしまった事だ。〉
(えっ!? どういう事!?)
 直ぐさま聞こえてきた、電話の録音内容に、私は慄然としました。
 《はい、橘恵美です》
 《あの、柳沢奈緒子ちゃんのお知り合いでしょうか》
 機械的ながらも、女の人の声でした。恐らく声の主は御主人様でしょう。
 《はい、奈緒子ちゃんは私のお友達ですが、何故…?》
 《私、荒河町の公園の管理をしている会社の者なんですけど、公園を清掃していたら、公園の倉庫の中からバッグが見つかりましてね。中に携帯が入ってまして、これが柳沢奈緒子ちゃんの物らしいんです》
 《ええっ!? 本当ですかっ!?》
 (!!!!!!!!!!!!!!)
 大変驚き、ショックを受けました。
 私の携帯は、ここに監禁された時に壊されていたからでした。
 《それで電源入れて、アドレス調べてたら、貴方の電話番号が登録されてまして…》
 《そうだったんですか。奈緒子ちゃんの携帯が見つかったんですか。でも、どうして荒河町で…?》
 (ああっ!! 恵美ちゃん!! それ、私のじゃない!! 罠よ!! 信じちゃダメっ!!)
 私は心の中で必死で叫びました。
 《それじゃ、その携帯! 大至急、警察に届けて下さい!》
 《ええ。ただ、その前にこれ、本当に奈緒子ちゃんの物か、確認していただけないかしら。奈緒子ちゃんの御家族に確認していただこうと思ったんだけど、お留守らしくて、連絡が取れないの。それで代わりに貴方に…》
 《わかりました。私、今、ピアノ教室の帰りなので、すぐにそちらに行きます》
 《そう。お家に帰るの遅くなって申し訳ないけど、お願いできるかしら。それじゃ、待ち合わせ場所はね…》
 待ち合わせ場所の指定が済み、最後の挨拶を交わした所で電話が切れ、録音も終わりました。
(恵美ちゃん!! 罠よ!! 行っちゃダメっ!!)
 私は心の中で恵美ちゃんの無事を願いました。
 しかし、その願いが虚しく打ち破られるのを目の当たりにしました。
 再びテレビに画像が映りました。
 画面は左右に二分割され、どちらも車に設置されたカメラから撮影されていました。片方はフロントガラス越しに車の前方、片方はバックミラーに取り付けられたカメラから後部座席が映っていました。前方に映る風景は人気の無い裏通り、辺りも薄暗い夕暮れ時。そこに、前から一人の女の子がやってきました。
 (えっ!? ま、まさかっ!?)
 車は無灯火のまま急発進し、車の右側にその女の子が消えた所で急停車しました。
 そして、カメラが激しくぶれたかと思うと、後部座席を映した画面に女の子が押し込まれ、大人の男性が覆い被さり、激しく抵抗する女の子を押さえつけていました。
やがて、女の子はぐったりして動かなくなり、車は再び急発進しました。車は更に人気の無い、薄気味悪い廃墟っぽいビルの駐車場に入り、そこでぐったりした女の子を降ろしました。
 (め…、恵美ちゃん…)
 その女の子は恵美ちゃんでした。クロロホルムか何かを嗅がされたらしく、意識を失ったまま縄で縛られていきました。猿轡もされて、窮屈な姿勢で縛られた恵美ちゃんは、大きな旅行用キャリーケースに押し込められ、ケースの蓋が閉じられた所で映像は終わりました。
 《本日、午後7時頃、荒河河川敷の公園で女の子が川に落ちたという110番通報があり、警察が荒河一帯を捜索したところ、小学生の物と思われる靴と鞄が発見されました。鞄の中を調べたところ、ピアノの楽譜とノート、文房具などが入っており、それらに記入された名前から、転落したのは都内に住む小学5年生、橘恵美ちゃんと見られ、捜索が続いてます》
 ラジオのニュースが流されました。どうやら、恵美ちゃんは川に転落した事になってしまっていました。
 〈フハハ…。私の事を探ったりしなければ、こんな事にはならなかったのにな〉
 (ひ、酷いっ! 恵美ちゃんになんて事を…)
 私は御主人様に対して激しい怒りと憤りを覚えました。しかし、程なく、今まで以上の絶望感と悲しみを感じました。
 (私のせいだ…。私のせいで恵美ちゃんまで…)
 私が御主人様に騙されて、ここに監禁されていなければ、恵美ちゃんも巻き込まれなかった筈なのです。激しい自責の念が、私を苛みました。
 その日は、バイヴで何回イかされても、その絶頂に酔いしれる気分ではありませんでした。激しい自責の念と恵美ちゃんの身を案じる事で精一杯で、殆どいつ絶頂を迎えたのか記憶にありませんでした。
 (本人記述不可能な為、丸木戸沙弩氏による代筆)

(2014年7月)

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