利佳が目を覚ました時、一寸先は闇だった。実際に目の前は全く光が差さない、全くの密閉状態の空間だった為、視覚から自分が如何なる状況か察する事が出来なかったが、代わりに他の感覚が活きていたので、そこから自分の状況が理解出来た。
先ず、皮膚の触感で眉と目の周り以外全て何かが密着し、圧迫感を与え、僅かな身動きすら封じている事を認識した。嗅覚が察した匂いから、分厚いゴム製の物に躰が密閉されているらしいと判った。鼻と口を覆う酸素マスクらしい物の中で、口に挿入されているマウスピースから流動食や飲料水が流し込まれ、舌が味を確かめながら少しずつ喉に送った。流動食や飲料水、酸素を送る機械音が躰と覆われているゴムを伝わる振動となって聴覚を刺激した。股間に覚えた異物感からアナル開放プラグや尿道カテーテルを挿入されている事を認識した。挿入されている物と、流動食に機械性下剤が混ぜられていたので便が軟らかく、開きっ放しのアヌスから独りでに排泄される等、垂れ流し状態だった。
(私…、どうして、こんな所に…)
利佳がフェラチオの調教(レッスン)で泣きじゃくり、“解放”を告げられた時の後、拘束を解かれ裸にされて清拭、シッカロールを打たれている最中、別の男達が持ち込んだアルミかジュラルミン製らしい円筒型の、棺の様な大きなカプセルに入れられた。
アナル開放プラグとホース、尿道カテーテルが付いた護謨のパンティを履かされ、睡眠薬を飲まされ、カプセルの中の、利佳の体型をかたどって作られた硬質発泡ウレタンとシリコンゴムの雌型に全身を填め込まれ、尿道カテーテルとアヌスのホースが内側のた穴に接続、水泳帽で髪を纏められ口のマウスピースと人工呼吸用マスクを装着、前半分の発泡ウレタンとシリコンゴムの内蓋を填め込まれると、もう僅かな身悶えしか出来なくなり、ジュラルミンの外蓋が閉じられ、固定されるとそれすら出来なくなった。
幸い、先程飲まされた睡眠薬のおかげで、程なく眠りに落ちていき、圧迫感に苛まれずに済んだ。
目覚めてから暫くして、その時の事を思い出した。
そして、睡眠中逃れられた圧迫感と孤独感、恐怖感が利佳を苛んだ。
(怖いよぉっ! 誰か助けてっ! ここから出してっ!)
声にならない叫びを念じながら、利佳は暗闇で涙を溢れさせ、頬を濡らした。もうどれ位閉じ込められているのか判らず、意識が遠のき始めた時だった。
突然開いた顔の部分の蓋から照明の光が差し込み、利佳は眩しさに目をしかめた。目を慣らしながら開けていくと、金属音と伴に圧迫感が緩んでいくのを感じ、前半分の内蓋が外されると汗だくになった躰が急に外気に触れた為に悪寒を感じた。
「寒い、寒いよ…」
男達の手で起こされ、マウスピースを外されて口が自由になった利佳の、最初の一言がそれだった。立たされて汗を拭き取られても寒さが治まらず、尚も寒さを訴える利佳の為、ビニールの簡易浴槽が用意された。湯が張られ、利佳はそこに身を浸し、スポンジを手にした男達の手で撫で回されながらも、安堵の色を浮かべて浴槽に横たわった。
入浴後、監禁されて以来初めて身に纏ったラバー以外の衣料が、利佳の汗や湯上がりの水分を吸収した。タオル地のバスローブに袖を通し、再び躰を冷やさない様にタオルケットにくるまって椅子に座らされ、熱いミルクを男の一人に口移しで飲まされ、落ち着いた表情を浮かべた。
利佳は辺りを見回し、今まで監禁されていた部屋よりも狭く、無かった大きな鉄扉の存在に気付き、カプセルに閉じ込められて別の場所に移された事を理解した。
(あの部屋から出されたって事は、本当に解放して貰えるんだ…)
淡い期待に浸っている時、丸いカバーを被せたトレイが運び込まれ、カバーを外すと、キチンと皿に盛られた料理が入っていた。これも監禁されて以来初めてのまともなに料理に、利佳は思わず唾を飲んだ。しかし、利佳はタオルケットごと荷造り用紐が巻かれ、乳幼児用の涎掛けを首に掛けられた。そして男の一人が料理を直に手掴みし、大きな肉や野菜は手で千切り、少しずつではあるが利佳の口に押し込んだ。利佳は押し込まれた指をしゃぶり、舐め回し、料理が口に運ばれる毎に、それを繰り返した。スープ等でさえ、スプーンも使わず食器を口に付けず、掌で掬われ、それをすすらされた。たちまちの内に利佳の口の周りサラダのはドレッシングやソースだらけになり、涎掛けもベトベトになった。皿は男の手でソースや肉汁が綺麗に拭き取られ、利佳はそれを舐めさせられた。
何時の間にか、利佳は男の指をフェラチオをしてるかの様にしゃぶり、執拗に舐め回した。
食事が終わるとすっかり汗も引いており、顔を綺麗に拭かれ、紐を解かれタオルケットやバスローブを脱がされると再びシッカロールを打たれ、白いラバーのタイツを履かされた。
これから何が始まるのかを聞かされないまま、利佳はラバーに身を包まれていった。白いラバーと合皮、ビニールのチュチュを着せられた時、利佳は何が始まるのかを尋ねた。
「これから、お前の発表会だ」
「発表会…!? 発表って……??」
「今までの調教の成果を御披露目するんだ」
「調教の成果…!? 成果を見せたら…!? 私、お家に帰して貰えるの…!? 」
「家に…!?」
「だって、“もうすぐ解放だ”って…」
「解放…、確かに解放だ」
利佳は、その意味を理解出来ていなかったが、それを聞いて安心した。
しかし、それが後に彼女の運命を狂わすとは予想だにしなかった。
支度が終わった時、利佳は白いラバーと合皮、ビニールのチュチュに身を包み、ステンレスの枷を塡められていた。鏡で己の姿を見たとき、感動を伴った哀しみを感じた。
その白いチュチュが白鳥をイメージしたものであることは一目瞭然だった。
本来のバレエの発表会で、利佳は白鳥のチュチュを着る予定は無かった。いや、彼女自身、教室内ではレベル高いの方だったが、コンクール等で上位入賞出来るレベルとは言いがたく、プロのダンサーでもなかなか着れない「白鳥の湖」のオデットのチュチュは夢のまた夢であった。
(こんな形でオデットのチュチュを着る事になるなんて…)
ふと、利佳は自分が拉致された当日の事を思い出した。
学校。
廊下を行く寺田に、利佳が声をかけた。
「寺田先生。宜しいですか」
「どうした? 佐々木、何か用かい」
「私、麻ヶ屋町の“プリンセス・バレエ教室”っていうバレエ教室でバレエを習ってるんてすけど、11月の頭に発表会があるんです。そこで先生に見に来て欲しいんですけど」
「俺なんかが行ってもいいのかい」
「是非、来てください。ただ…」
「ただ、どうした?」
「変な人を入れない為に、招待客しか入れないんです。何とか教室の先生にお願いして、先生の分も確保しましたので、受け取って貰えますか」
「いいとも。有り難く頂くよ」
「有り難うございます。郵送しますので、待ってて下さいね」
お互いに笑みを交わした。
その時、寺田は携帯で利佳の写真を撮影した。
「いい笑顔だ」
寺田の一言に、利佳は顔を赤らめた。
(もう発表会、終わっちゃっただろうな…)
利佳の瞳から涙が溢れた。見て欲しかった人に見せられなかった晴れ舞台が、この様な形で行われようとしている。そう思うと悲しみが募った。
(もうすぐ帰れるのに、嬉しくない。どうして…?)
これから始まる汚辱の舞台で何が待っているのか判らなかったが、それさえ終われば解放して貰える。
しかし、それが済んだ後の不安を、利佳は感じていた。
どんなに自分がここで受けた仕打ちの事を黙っていても、周囲から好奇の目で見られる。行方不明になっていた間、どこで何をされていたのか。
そして、ここでの事が暴かれた時の恐怖が利佳を苛んだ。
「こ、怖い…」
その一言に、足首に枷を填めていた男が反応した。
「怖い…、怖いよ…」
「どうした、利佳」
「怖いよ! 解放して貰えて、お家に帰った後の事が怖いよ! ここでされていた嫌らしい事、淫らではしたない事、それらが明るみになった時の事が怖いっ! きっと、みんな私を汚らわしい女の子って思うに決まってる! 大好きな先生にも嫌われちゃう!」
我慢しきれず、利佳は泣きじゃくり、不安と悲しみを訴えた。例えどんな仕打ちを受けようとも、自分の感情を表に出さずにはいれなかったのだ。
しかし、男達はそんな利佳を咎めだてるでもなく、優しく涙を拭い、メイクを直すだけだった。
「案ずるな。間もなく全てが終わって、始まる…」
利佳はその言葉の意味が理解できなかった。
首の枷に手綱が、手首の枷に拘束具が繋がれ、大きな鉄扉に牽かれていった。足首の枷に繋がれた鎖のせいでゆっくりとしか歩けなかったが、少しずつ近づいていった。扉の向こうから、ざわつく人の声が聞こえてきた。声の様子から、20~30人位の人がいると思われた。
そして、扉が開けられた。
目覚めてから暫くして、その時の事を思い出した。
扉の向こう、利佳の目の前には異様な光景があった。そこは今まで監禁されていた部屋の3~4倍も広いホールで、天井は今までの部屋よりやや高く、コンクリート地のまま壁から太い鉄骨の梁が剥き出しになっていて、きつい灯りの照明器具や吊り上げ装置等が取り付けられていた。
四方の壁もコンクリート地だったが、一面だけタイル張りになっており、床もタイル張りの壁の近くだけタイルが貼られていた。
タイル張りの壁に対峙する形で約30基程のパイプ椅子が、丁度タイル張りの壁をステージに見立てる様な形で並べられており、ラバーに身を包んだ人間が男女を問わず座っていた。皆、利佳の方を凝視しており、ひそひそ話も聞こえてきた。
〈これが例の…〉
〈なんて小さい、可愛い奴隷…〉
〈好事家の間では噂になっていたがな…〉
〈あの行方不明事件の子がねぇ…〉
タイル張りの壁には横長の紙が貼られ、こう書かれていた。
『護謨奴隷御披露目咬(こう)艶(えん) 奴隷リーナ マゾ利佳 ROBBER BALLET発表会 ―御(お)奴(ど)俚(り)子(こ)、マゾ利佳の淫靡な撫踊・幼艶なるFELLARYのSEX罵(バ)隷(レ)悦(エ)―』
何が始まるのか理解出来なかったが、利佳は本能的に戦慄を覚え、後ずさりし、抑えている男達の手を振り解こうとした。しかし、振り解いて逃れられる筈もなく、利佳はタイル張りの舞台に引かれていった。
利佳はタイルのステージに引かれていき、居合わせた約30人のラバーを纏った人々と向かい合わされた。
目の部分も穴あきのラバーやネットに覆われていた為、その眼差しは見えなかったが、好奇好色の眼差しであろう事は想像できた。
ホールの左右の壁際にはハンガーラックに掛けられたラバーやビニールらしき物で作られた何着ものチュチュや、雌の記号「♀」を模った十字架ならぬ♀字架等の責め具が用意されていた。
そして、利佳に目映いばかりの照明が当てられ、眩しさに思わず目をしかめた。
この集まりの主催者らしき、ラバーの赤い三角頭巾らしき物を被った人物が集まっている者達に向かって口を開いた。
「皆さん、本日は同好の諸兄の集いにお越し頂き、有り難うございます。今回は指向を変えまして、ラバーバレエの発表会を開催したく思います。紹介しましょう。本日の主役、恐らく世界で唯一のバレリーナのラバーフェチにしてマゾ奴隷、“奴隷リーナ・マゾ利佳”です。皆様御存知の、巷で失踪事件として騒がれている、あの少女とは似て異なる淫靡な幼牝です。この牝は品行方正な少女だったら、絶対に立ち入らない、彷徨かない場所と時間帯を、まるでレイプして貰おうと彷徨っていた所を保護し、我々の仲間がラバーフェチとサディズム的愛情をもって、大切に育ててきました。その成果をとくと御覧下さい」
利佳はその挨拶を否定しようとしたが、恐怖で声が出なかった。
枷の鎖が繋ぎ直され、淫靡な舞踊の幕が開いた。